【gf.X株式会社と伊藤忠ファッションシステム株式会社が業務提携】

インフルエンサーブランドnairoの経営強化とSNSを活用した新たな事業を計画

 

gf.X株式会社が運営するインフルエンサーブランドnairoは、伊藤忠ファッションシステム株式会社のサポートのもと、ブランドの新規顧客の拡大や生産体制の強化を目指します。また、nairoがもつD2Cブランドとしてのノウハウを生かして、SNSを活用した新しい事業の横展開を計画しています。
2社の代表が対談を通し、現状の課題や業務提携の背景、ブランドの未来などをお届けします。

杉山 太士(すぎやまたかし)/gf.X株式会社 代表取締役社長

大学卒業後、海外Collection BrandのSales Agentとして全国の百貨店や優良セレクトショップとの取引を開始。 その際に培った営業・貿易業務の経験を活かし2009年株式会社AYURAを共同経営者と設立。
「ファッションで世界中を幸せに」を理念に、ジャンルに囚われない自由な発想で様々な業態の店舗を展開中。 2020年 gf.X株式会社の代表就任。
アパレルのサプライチェーンマネジメントを実現させるべく、新しいファッションサービスの開発と運営、また一次流通、二次流通の垣根を越えて、インターネット販売における企画及びコンサルティング業務を行う。

 

駒谷 隆明(こまたにたかあき)/伊藤忠ファッションシステム株式会社 代表取締役社長

1987年に伊藤忠商事株式会社に入社。「L’ECLAIREUR」「DEAN&DELUCA」等の日本導入に携わる。
2017年コロネット株式会社 代表取締役に就任。
2018年伊藤忠ファッションシステム株式会社代表取締役に就任。パッケージ化した企業サポートを行い、生産から販売までの一連のブランディングに携わる。
現在、YouTubeにてサステナブルな未来を『ifs未来研究所』から発信している。


Q.今日は、gf.X株式会社と伊藤忠ファッションシステム株式会社の業務提携についてお伺いします。はじめに、gf.X株式会社ではどのような事業を手がけているのでしょうか?

杉山:弊社ではサイト運用のサポート及びコンサルティング事業、リユースの販売及び真贋鑑定事業などを行っています。
特に、力を入れているのはインフルエンサーブランドnairoの運営です。

Q.ここ数年で、インフルエンサーブランドは増加の一途をたどっています。
ファッション業界におけるインフルエンサーブランドの立ち位置と発展の経緯をお聞かせいただけますか?

駒谷社長:ベースになるのはInstagramの登場ですね。
2010年に始まり、2014年に日本語版がリリースされ、2017年に「インスタ映え」という言葉がユーキャンの流行語大賞になりました。2016年に始まった「インスタライブ」は、ライブ配信を通してファンとのコミュニケーションを深めたり、より多くの情報を伝えられる装置となり、Instagram上でモノを売り買いするということのハードルを下げていますね。こうしたSNSの発展をベースに、小ロットで対応するアパレルも出てきています。SNS上で商品の写真を見せることで、売り場を持たない仕組みが広がり、アパレル業界進出へのハードルが下がるようになりました。
また、インフルエンサーの出現により、アパレルの主流であったプロダクトアウト型に変化が生じています。インフルエンサーがフォロワーからのニーズを的確に捉えて、ファンがほしいものを提供できるようになったためです。D2Cの流れは、今後も続くでしょう。たくさん作って在庫をセールする時代から、残さない時代へ変化しています。

Q.確かにファンからのニーズを吸い上げてキャッチボールできることはインフルエンサーブランドならではの強みですね。逆に、弱みはありますか?

駒谷社長:nairoに関していうと、ディレクターのりぃさんはファッションに対する感度が実にいい。ファッションを体系的に学んでない分、しがらみがないので、作りたいものを自由に表現していますね。
ただ、ブランドが大きくなるにつれて年間計画を立てたり、季節に応じたコーディネートをしたりという全体構築が必要になると思います。来年を見据えて展開を考えたり、道筋を立てたりすることは、経験者とともに模索するといいでしょう。インフルエンサーブランド全体にいえますが、規模が拡大するにつれて事業設計の難しさに直面しやすいといえそうです。

Q.杉山さんからもインフルエンサーブランドの強みや弱みをお伺いできますか?

杉山:強みは、SNSを介したファンとのエンゲージメントが高いため、お客様の声がダイレクトに入ってくることです。そのため、企業目線で予測して洋服を提供するのではなく、お客様が求める洋服づくりが実現できています。
弱みは、2つあります。
1つ目は、ブランドがインフルエンサーの行動に左右されるところです。感情的な発言やファンの期待を裏切る行動は、フォロワーにダイレクトに伝わります。ファンとの距離が近いということは、ブランドへのダメージや不安定さも兼ね揃えているということです。
弱みの2つ目は、ブランドとしての未来を打ち立てにくいところです。 駒谷さんも仰ってますが、現状ではInstagramのフォロワー数や投稿への「いいね」数をベースに服作りをしています。それを追い続けたブランドの未来が見えにくい面もあります。

駒谷社長:実店舗をもたないのは、インフルエンサーブランドの強みですが、商品を見て、試着したいというお客様も一定数います。そのアプローチの仕方も考える必要がありそうですね。

Q.インフルエンサーブランドは飽和状態にあるように見えます。これからもブランドが増え続けるのか、それとも別の変化が起きるのかについて、どのように考えていますか。

駒谷社長:既存のブランドは存続を試されるでしょうし、今までのインフルエンサーとは異なる別の属性の人たちがブランド展開に参入してくるでしょう。マーケットのスキームも変化していく中で、ブランドが乱立して競合が増えていけば、他のブランドとの違いを際立たせることが重要になってきます。

杉山:駒谷さんと重なりますが、ブランドのオリジナリティは出しづらくなるでしょうね。セレクト品をブランドとして運営しているところと、インフルエンサーブランドの垣根がなくなってきています。フォロワーが1万人程いれば誰でもブランドが持てるようになっているので、ブランドの立ち位置はこれから試されていくと思います。

駒谷社長:インフルエンサーブランドは同じ年代の方と共感することが多いですよね。しかし、年月とともに、ファンのライフステージは変化し、ライフスタイルも消費行動も変わるため、同じコンセプト、同じターゲット像でブランドを継続していく上では、どこかで顧客の若返りが必要になります。 このようにインフルエンサーブランドは年月を経ると、フォロワーとターゲットにズレが生じるのが難しいところですね。だからこそ、常に俯瞰的な視点で時代の空気感やターゲット世代の価値観やライフスタイル、消費行動を捉えておくことが重要になると思います。

Q.これまでの様子から、以前から親交があったようにお見受けします。gf.X株式会社と伊藤忠ファッションシステム株式会社の交流のきっかけを教えてください。

杉山:私は2009年に設立した株式会社AYURAにて、ミラノ・パリコレクションに出展しているブランドを集めた、セレクトショップと若年層向けのセレクトショップの運営を続けています。パリには、ラグジュアリーブランドを扱っている人なら誰もが注目している「L`ECLAIREUR(レクレルール)」というセレクトショップがあります。2006年に「レクレルール」を日本で展開するために尽力された方が、駒谷さんです。あの「レクレルール」が日本にやってくるなんて、当時の私にとってはものすごい衝撃でしたし、そのプロジェクトのリーダーである駒谷さんは、もちろん憧れの人になりました。友人である株式会社ZOZOのファッションチアリーダー武藤貴宣さんが駒谷さんと知り合いだと伺い、懇願してご縁をつないでもらったのです。
インポートブランドを扱っているコロネット株式会社の代表を駒谷さんが務めていたときに、AYURAで運営しているセレクトショップにもさまざまなブランドを紹介していただきました。
その後、2020年にgf.X株式会社を立ち上げました。nairoを運営し、サイト構築の際には駒谷さんに手伝っていただき、折々に相談にのってもらっています。

駒谷社長:杉山さんのセレクトショップは、私にとって理想です。店内にBALENCIAGAなどのハイブランドが所狭しとディスプレイされていて、圧巻ですよ。日本ではセレクトに特化したショップがどんどんなくなっているなかでも、お店を続けているのが本当に素晴らしいと思います。センスのいい杉山さんとのご縁を大切にしたいですね。

杉山:私も駒谷さんとのご縁を大事にしたいなと思います。尊敬している方にそのようなお言葉をいただき、光栄です。

 

Q.なるほど。お二人の親交は、nairoが始まる前からのお付き合いだったのですね。先ほど、ブランドサイトの立ち上げのときに、駒谷さんからもアドバイスをいただいたというお話が出ました。nairoを運営しているgf.X株式会社がこれまで歩んできた道のりを、もう少し詳しくお聞かせください。

杉山:AYURA設立から培った小売業のノウハウと、ジーエフホールディングスがもつ物流基盤を融合させようと考えました。そして、アパレルのサプライチェーンマネジメントを実現させるため、2020年にgf.X株式会社を立ち上げ、12月にnairoをローンチしています。はじめはどの程度売れるか手探りだったので、ディレクターのりぃと中国や韓国で購入した商品をBASEで販売することから始めました。すると、50~100枚の洋服が数分で完売したのです。このことを契機に、洋服の販売に本格的に乗り出します。
ただ、既製品ではりぃの強みを生かしきれません。なぜなら、151cmの低身長でもスタイルよくスタイリングできること、低身長をコンプレックスではなく、アイデンティティに転化できたことが彼女の強みだからです。そこで、りぃにあった服をゼロベースで作ることになり、2021年5月より洋服を販売し始めました。最初の予約会の型数はたったの2型でした。月2回の予約会で注文があった分だけを生産する完全受注生産とし、これまでもそのスタイルを継続しています。同じ時期に、nairoの公式Instagramも開設し、現在11.6万人までフォロワーが増えています。
そして、2022年12月には、新宿伊勢丹でPOPUPを開催しました。5日間でのべ1,500人が来場し、約1,000人の方に洋服などをお買い上げいただきました。完売商品も続出して、大盛況で幕を閉じました。
また、女優の堀田真由さんをnairoの公式アンバサダーに起用したのもこのころです。

Q.2年という短期間で急成長した様子がうかがえます。それによって、nairoに起こった変化や業務締結に至った経緯をお聞かせください。

杉山:成長によって2つの課題が発生しました。
1つ目は、新しい顧客の獲得です。
nairoはSNSのアカウント発信から顧客を得ていました。言い換えると、SNS以外からの流入が見込めずにいます。新しい顧客と出会うためにも、SNS以外での広告や広報活動などの必要性も考えています。今後は、伊藤忠ファッションシステムからSNSだけでは知りえないデータや情報を提供していただきます。その数値を足がかりに新たなマーケティングを試して、ブランドの認知拡大をしていきます。
2つ目に、生産体制の強化です。
商品の生産・納期管理などは、初めてのことばかりでこれまで手探りで進めてきました。
完全受注生産というスタイルの都合上、お客様には商品が届くまで約2ヶ月間もお待ちいただいています。お時間をいただいている分、期待を超える質の高い商品を提供したい一方で、ラインアップ数や生産量が増えてきたため、質を担保し続けることの難しさに直面しています。今後は、伊藤忠ファッションシステムから品質を担保するノウハウや技術面のサポートを受けて、質の高い商品の提供を維持していきます。
以上が、業務提携に至った理由です。

Q.伊藤忠ファッションシステム株式会社がgf.X株式会社と業務提携を決めた理由を教えてください。

駒谷社長:弊社はいくつもの事業者とライセンス契約を結んでいるため、企業ブランドとの関係は深く、その運営ノウハウも持ち合わせています。
一方で、個人の発信力で販売する、インフルエンサーブランドのようなD2Cブランドのノウハウはありません。そこで、nairoの知見を活かした情報発信や生産体制を取り入れ、ライセンスブランドなどに応用し、事業拡大を図りたいと考えました。

Q.なるほど。業務提携によって既存のライセンスブランドへのテコ入れが期待できると考えたのですね。この締結により、gf.X株式会社の力になれそうと考えている部分もお聞かせください。

駒谷社長:りぃさんの低身長というアイデンティティは強みでもあり、弱みでもあると思います。りぃさんのメッセージは低身長の方にリーチしやすいですが、高身長の方だとどうでしょうか?スポット的なアプローチからストレッチ感のある提案にシフトする必要がありそうですね。弊社がブランディングをお手伝いして、ブランドとして発展させられるようサポートしていきたいと考えています。

Q.先ほどもお話に出たとおり、伊藤忠ファッションシステムはいくつもの事業者とライセンス契約やサポート、マネージメントを行っています。今回、インフルエンサーブランドという新しい分野を運営しているgf.x株式会社との業務提携により、目指す未来についてお聞かせください。

駒谷社長:まずはnairoを発展させることに注力していきますが、それをベースにして新しい事業を横展開したいと考えています。
例えば、日本未上陸の海外メーカーを弊社が探し、バッグやシューズなどの小物を仕入れ、杉山さんの会社がSNSを使って宣伝と販売をするイメージです。SNSを介した販売方法を開拓したいと考えています。

 

 

Q..最後に、業務締結によって目指すgf.X株式会社の目標やブランドの未来についてお聞かせください。

杉山:まず、nairoは、商品の安定供給に一層力を入れていきます。これまでも綿密にスケジュールを組んで生産に取り組んでいましたが、サンプルが不十分で作り直しを余儀なくされるなど、どうしてもお届けまでの期間が長くなってしまうことがありました。そうすると、洋服を楽しめる期間も短くなってしまいます。「期待を超えた商品をお届けする」という点にはこだわりつつ、商品が着たい季節にぴったりお手元に届くことを目指します。 その他には、ホームコレクションにも着手したいですね。
業務提携することで、一足飛びに前に進むのではなく、半歩先でいいと考えています。こんなお洋服があったらいいなと思い描く質の高いものが、ちょうどいいタイミングで届く。それを継続していくことが私たちの目標です。
そして、AYURA時代から培った知見をベースに、新たなセレクトショップの展開を考えています。
今はBALENCIAGAやCELINEなどの直営店を持つハイブランドと、SHEINなどの価格を抑えたブランドに2極化していて、中間層のアパレルの継続が難しい時代です。こういった中間層のブランドを手に取れる場も少ないと感じています。
日本では認知されていないけれど、クオリティもバックグランドもしっかりしている海外ブランドはたくさんあります。コロナ禍により海外ブランドの情報が入手しづらい状況が続いているため、新たなブランドと出会うチャンスはまだまだ広がっています。
具体的には、nairoのサイトでオリジナル商品とともに、国内外問わずnairo視点でセレクトした商品も取り入れて、セレクトショップとしてブランドを展開していきたいと考えています。新しく見つけたブランドをSNSで紹介・販売することで、多くの方に素晴らしいクリエーションのブランドをお届けできる、架け橋を目指します。
そのためにも、国内外にコネクションをもつ伊藤忠ファッションシステムと、強力に連携していきたいと思います。

 

Written by 冨田裕子